職場の風景

インターネットの話はさておき,生活のペースが徐々に安定してきて,やっと落ち着いて仕事に取り組めるようになった。日本の職場だと雑談から業務上の話まで,そこら中で人の話し声が聞こえてきてたまに煩わしく思う時があったけれど,こちらの職場は極めつけに静かなので集中して仕事をするにはとても都合が良い。自分の職場だけなのか全般的にそうなのか分からないが,インド人は業務時間中にはほとんど雑談をしないし,仕事上の会話もとても密やかな声で行う。おかげであっという間に時間が過ぎた。

 

こちらの職場で働いていて気づいたことや興味深かったことをいくつか書いてみたい。

 

  1. ビル入場時には国際空港なみのセキュリティチェック
    オフィスビル・ショッピングモール・役所などの建物には,ほぼ例外なく金属探知機を持った守衛と手荷物検査用のX線装置,そして人がくぐるセキュリティゲートが建物の入り口に設置されている。これは毎朝入場時には必ず通過しなくてはならない。ふだん生活しているぶんには何も恐ろしいことは感じないけれど,インドはパキスタンと国境を接しているし,実際にテロ騒ぎも起きているわけで,実は常時臨戦態勢な状況にある国と言えないこともないのだ。

  2. 分業が徹底している
    ビルには守衛やガードマンがいるのだけれど,ビルの大きさに比べて多すぎに思える
    。各フロアに7〜8人はいるだろう。これは,各階担当・階段部分担当・各会社の入り口担当・・・みたいに完全に守備範囲が決まっているかららしい。守衛はまだともかく,なんとお茶汲み専門の人までいる。自分が務めている会社の場合は,痩せたマリオのような風貌のおじさんが毎日朝と夕方の2回,コーヒーまたは紅茶を入れた小さな紙コップを載せたお盆を持って全員の座席に配って回る。そのおじさんは普段はコーヒーを淹れるところに待機していて,飲みたくなったらそこにお願いしにいくと,目の前でコーヒーを淹れてくれる。淹れてくれるといっても,カフェによくあるボタンひとつでコーヒーやカフェラテなんかを入れられるやつをポチっとするだけなのだが,とにかくそれが仕事という人なのだ。こういう人はきっとどの会社にもいることだろう。失業対策だろうか?

  3. いろいろボロい
    自分が座っている席には施錠できる引き出しがあるのだが,普通に鍵を入れても回らない。最初は鍵を間違えたのかと思ったのだが,そうではなくて立て付けが悪いだけだった。けっきょく引き出しを肩から全力でグッと押し込めば鍵が回った。こういうボロさはいたるところにあって,オフィスの入口にあるIDカード式のドアロックは,カードリーダーがたびたび動作しなくなって閉めだされたり閉じ込められたことが何度かあった。共用プリンターのすぐ上の天井には人間が二人ぐらいくぐれるような大きな穴が開いていて,電線やらダクトやら何やらが丸見えのまま放置されている。トイレの洗面所の蛇口は三つに一つは手をかざしても水が出てこない。いちおう,職場のビルは築数年程度の最新式のビルのはずなのに。

  4. 日本よりも照明が暗い
    日本に比べて照明の光度が低い。廊下も薄暗い。単にそういうものなのか,節電対策なのかはよく分からない。ちなみに,職場でもフロア全体の照明がパンッと落ちたことが一度,一瞬チカッと照明が点滅したことが二度あった。これは普通に停電しているそうだ。サーバーなんか動かしていたら酷いことになりそうだと思っていたら,そういうのはUPSでしっかり防衛しているらしい。

  5. 職場に水のボトルが大量に置いてあって飲み放題
    水はペットボトルで飲むのが当たり前というお国柄だからか,職場のキャビネットの上にペットボトルが大量にストックしてあって,これも専任の人が毎日各社員の机の上に一本ずつ置いていく。飲み終わったら自分で適宜取りに行ってもいい。500mlだったり1リットルだったりと様々だけど,飲み残したら家に持って帰っても一向に構わないので結構ありがたい。これも日本には無い光景だろう。

ボロさについては,バンガロール=インドのシリコンバレーという先入観があったからとても意外に思った。そんな感想をインド歴が長い大先輩に言うと「んー,まー,単に"ITの街"ってだけであって,別に"高級な場所"ってわけじゃないからねー」と仰っていた。なるほど。