誤読

ネタが無い時は思い出話で埋める。オチは無し。

 

子供の頃から大人になるまでずっと続いていた勘違いがある。

「〜注意報」については、勘違いが始まった瞬間のことは良く憶えている。父親が毎朝出勤前にテレビでニュースを見ており、その時の天気予報中に「本日はどこそこに波浪注意報(or 濃霧注意報)が出ています」というような感じでアナウンサーが話しているのを、寝起きのぼんやりした頭で聞いたのだ。たしか「ズームイン朝」だったような気がする。当時は小学校4年生ぐらいで、「濃霧」や「波浪」という言葉を知らなかったので、「のうむ=ゲームに出てくるノーム」、「波浪=(英語の挨拶の)ハロー」だと頭の片隅で思い込み、「変だなぁ」と思いつつ特に追求することもなく、そのまま頭にインプットされた。「濃霧注意報」についてはその後小6だか中学ぐらいのころに「濃霧」という言葉を知ったので特に問題は無かったのだが、「波浪」の件については社会人になるまでずっと勘違いしたままだった。たまたま日常生活で「波浪」なんて言葉を使うことがなかったので他人にバレずに済んだのだが、ある朝、寮の朝ごはんを食べている最中に共用テレビの天気予報番組で「波浪注意報」という単語を目にして、思わず「あ、それか!」と独り言を出してしまい、隣の席で食べていたオッサン(といっても今の僕よりも若かったはずだが)に怪訝な目でチラ見された。

 

問題は崎陽軒だ。

魚介類嫌いの延長でシュウマイも苦手(小エビが乗っていたり、魚介類のすり身が具に混ざっていることが多いので)だった僕は、川崎育ちだったにも関わらず崎陽軒の存在をまったく知らず、この会社とブランド名を知ったのは社会人になってからだった。そして、ごく自然に「さきようけん」と読むのだと思い込んだ。

周辺で崎陽軒が特に話題になることは無かったけれども、たとえば何かのイベントで食べ物を手配しようという話になった時に、崎陽軒のシュウマイも候補にあがったりするので、そういう時にメールのやり取りの中で「崎陽軒」という単語が出てくることはたまにあった。そういう時、「さきようけん」で変換しても当然ながら一発では出てこず、「面倒だなぁ」と思いながら「崎」「陽」「軒」と一文字ずつ書いていた。

それでも、メール等の文章でやり取りしている間はまだ誤読が明るみになることはなかった。しかし、ある日後輩のTくんと休憩時間に雑談をしている時に、僕が会話の流れの中で「さきようけん」と口にした瞬間、Tくんの顔が本当に一瞬だけ、かすかに怪訝な表情を浮かべたのを僕は見つけてしまった。オトナな彼はその後普通に「あぁ、そうですねぇ」と何気ない返事で流してくれたのだが、それでも、その表情を見て僕はかなり気になったのだ。そうだ、俺は崎陽軒を誤読してるんじゃないか。

午後から仕事が忙しくなってそのことは忘れてしまったのだが、帰りがけに電車の中で思い出し、自宅で調べてみた。そうしたら崎陽軒のウェブサイトのURLが「kiyoken.com」だった。その瞬間に頭の中が恥ずかしさでカッとなったのだが、とりあえずテレビを観たり風呂に入ったりしてうっちゃった。それでも、寝る時にまた恥ずかしさが甦ってきて、枕に顔を押し付けながら大声で「ンオオオアアーーー!」と叫んだ。