ゴキ

出た。もう寝ようかと思っていた夜10時ごろに。

 

ベッドの上でスマホをいじりながらウトウトしかけていたところで、リビングにいる相棒のギャーッ!という悲鳴が聞こえた。「来てくれ。見てはいけないものを見てしまった」というので「ひょっとしてゴキ?」と訊いたら、そうだという。僕もゴキは大の苦手で、近寄るどころか視界に入れたくもないし、処置するなら10mぐらいの長さのマジックハンドを使って対応したいぐらいなので、率直に言ってうんざり極まりないのだが、亭主という立場上さすがにスルーもできない。

そういうわけでしぶしぶベッドから起きてリビングに行ってみると、玄関の近くにちょっとした大きさの黒々とした物体がいた。僕の親指よりさらに爪一枚ぶん大きいぐらいだろうか。かなり弱っているらしく、僕の足音や気配が近づいても微動だにしない。体もなんだか少しひっくり返る寸前みたいな力のない感じに見えた。こりゃあ放置しておいても死ぬかもな、と思っていたら、そういうこちらの思惑を感じて「クソが、こんなところで死ぬわけねぇだろオラァッ!」とでも思ったのか、徐々に脚が動き出し、体勢も普通の平べったい状態に戻っていって、ゆっくりと歩き出した。相棒はパニックになり、僕も全身に鳥肌が立ったのだが、インドのゴキブリの例にもれず、動きが極めて緩慢なので、気持ちの上ではパニックにならずに済んだ。

冷静に観察してみると、触覚が極端に短くて、しかも左右の長さが不揃いである。敵に襲われて怪我でもしたんだろうか。すると、その場で止まって、(ありえないことだが)頭と胸の間が少しだけ伸びて、顔だけをこちらに向けたような動作をした(ように見えた)。なんとなく命乞いをしているようなふうに思えてしまい、ちょっとだけ不憫な気がしてきた。とはいえ見逃すわけにもいかない。新聞で叩き潰そうと思ったが、それはやっぱり後処理が大変だという相棒の意見もあり、防虫スプレーやアルコール除菌スプレーを噴霧してみることにした。しかしあまり効果はなく、刺激でむやみやたらと歩き始めたので、相棒のパニックぶりが加速した。僕も脇にジワッと汗が出てきたが、やっぱり動きが緩慢なので平静を維持しつつ、最終的には紙袋の中にうまく誘導して、相棒がすかさず持ってきたガムテープで口を塞ぎ、生ゴミコーナーに出した。

 

あぁ、やっぱり出るんだねぇと思ったが、それでも日本のゴキブリより遥かに御しやすいというべきだろう。日本のゴキブリのあのスピードと飛翔能力は異常。おもわずWikipediaゴキブリについて読みふけってしまった。インドにいるかどうか知らないけど、アシダカグモを捕獲してきて家で部屋の中で飼育してやろうか(僕はアシダカグモは間近で見たことが何度かあるのだが、なぜかコイツに関しては一向に平気である)。