クマバチ

一昨日のネタだが、やっと冷静に向き合えるようになったので書くことにする。

 


 

日中も夜も京都の実家で一人で黙々と在宅勤務してるわけだが、ちゃんと窓を開けて換気せぇという母のリモート助言により、日中は窓を開けるようにしている。

開けるのはいわゆる縁側に面した窓で、全部で二箇所あるのだが、片方は虫除けの網戸が備わっていない。しかし、「ゴキが出るぞ」とさんざん脅かされたわりには特に今のところ何も出現していないので、油断して網戸なしのまま全開にしておいた。これが最大の間違いだった。そのあと、昼過ぎぐらいにトイレに行って、そのままリビングに戻ろうとしたら、縁側の窓の網戸がわのほうに、何やら巨大な黒い楕円形のものが二つ張り付いていた。ギクリとしながら恐る恐る近づいてみると、なんとクマバチだった。凄まじくでかい。僕の親指の付け根から先ぐらいまでの大きさがある。それが二匹もいるのだ。しかも、とても残念なことに網戸の内側にいる。遠目には網戸の外側にいるようにも見えたのでちょっとだけ安堵したのだが、とんだ勘違いだった。正直言って、ちょっと脚が震えた。毛むくじゃらで見るからに「蜂!」という風態の巨大な虫が二匹もいるのだ。虫どころか蟲と書きたいほど恐ろしい。こんなのに刺されたらこの京都の家で孤独死してしまいそうだ。一面識もないお隣さんのお宅に行って頭を下げて追い出してもらおうかと考えてしまったが、それはあまりに格好悪い。「あそこのお宅、なんか40がらみのオッサンが入ってきたけど、虫にビビって助けを求めにきたぞw」とか噂されるなんて、想像するだけで恥ずかしさのあまり舌を噛んで死にたくなる。

おろおろしながら家の中を漁ると、台所の奥にゴキジェットみたいなスプレーを見つけた。一点集中攻撃できるように細いストローみたいな管まで装着されている。そこで、決死の覚悟で接近し、集中砲火でとにかく一匹始末するという作戦を考えた。二匹同時抹殺は難しそうなので、まずは戦力を削ごうと思ったのだ。そういうわけで、当日はけっこう暑かったにもかかわらず、ジーパンに靴下に厚手のジャケットで完全防御しながら蜂に忍び寄った。

間近で見るクマバチは、実はそんなに怖い見た目をしているわけでもなかった。確かに蜂なんだが、なんとなくモコモコしていて丸みを帯びており、不覚にも「ちょっと可愛いかもな」と思ってしまった。しかも、人間馴れしているのか、あるいはもともとそういうものなのか、僕が1m以内ぐらいに近づいても特に飛び回って暴れるような気配はない。蛾みたいに微動だにしないわけではなくて、網戸の上を適当に這いまわっているのだが、それも割とゆっくりとした感じで、あまり攻撃的というイメージでもない。

とはいえ、こんなのに刺されたらとんでもないので、この時点ですでに緊張感で汗びっしょりだった。覚悟を決めて一匹にブッシャ〜ッとスプレーを浴びせかけたら、ここで初めて驚いたように飛び回った。「イヒッ!イヒヒィ!」と奇声をあげてしまったが、必死の思いで網戸を開けたら、待ってたようにそこから外に飛び出していった。もう一匹も刺激されたらしく飛び回り始めたが、特にこちらに襲いかかってくるわけでもなく、必死に外に出たそうにしていたので、さらに大きく網戸を開けてやったら、「ひ〜助けて〜」という感じで出て行った。二匹とも出て行ったあとはすぐに網戸を閉めて、その場にヘナヘナとへたりこんでしまった。

 

そのあと水を飲んで一息つき、アドレナリンが引いたところで仕事に戻ったのだが、夜、Wikipediaで調べてみたら、まさに昼間見たとおりのクマバチの画像が現れた。

Xylocopa appendiculataWikipediaリンク

 

コレですよコレ。こうやってみるとなかなか格好良いじゃないか。カッコ可愛いというやつか。そして、記事を読むと、どうやら凶暴さの無い大人しい性格らしい。おまけにオスは毒針すらないそうだ。だったら、もう少し優しく対応してやってもよかったな。いずれにせよ本当に懲りた。これがスズメバチとかだったらどうなっていたか分からない。網戸なしで窓を全開にすると蟲が入ってくる。また一つ賢くなってしまった。