Mushi

またゴキブリの話です。っていうか虫の話です。

 

僕はもともとゴキブリに限らず蟲が大の苦手で、クモを唯一の例外として、昆虫に限らず節足動物はすべてダメである。これは子供の頃からずっとそうで、セミや蛾は当然ダメだし、蝶もけっこう苦手である。モンシロチョウぐらいの小さいやつならなんとも思わないが、子供時代に住んでいたマンションの廃品回収場所で、それまでジャポニカ学習帳の表紙でしか見たことのなかったアゲハチョウの実物を見た時は、想像以上にデカいうえに羽の模様がグロテスクで、その場で足が震えて立ちすくんだ記憶がある。

 

 

そういうわけで、いま一時避難先として居候している京都の父方の実家は煉獄や地獄のさらに下をいく最悪極まりない場所なのだが、それでも不思議なことに、だんだん耐性がついてきて、今ではゴキブリが割と至近距離で視界に入ってきても、まったくの平常心で殺虫スプレーを手に取り、悠々と振り掛けて必殺できるようになった。バンガロールにいた頃は、死にかけて動きの鈍いやつを相手に脂汗まみれになって心臓をバクバクいわせながら、相棒の手前つとめて平静を装って10分ぐらいかけて対処していたのだが、今ならバンガロールの甘え切ったゴキどもなど10匹ぐらい現れても秒殺である。

 

なんでこんなことを書いてるかというと、さっきジョギングから帰ってきてキッチンに行ったら三角コーナーのところに二匹いて「あ〜うめぇ〜」とばかりにリンゴとオレンジの皮にむしゃぶりついていたからです。もちろん二匹とも抹殺した。

 

あと、日本の殺虫スプレーすごいですね。インドみたいに命を慈しんでハエも殺さずできる限り部屋の外に追い出していく世界の対極にある、虫けらどもは一匹残らず殺し尽くしてやると言わんばかりの強力な効き目が素晴らしい。こういうのが欲しかった。

 

虫の話は書き出すときりがないのだが、次から次へと思い出してきたので書き続ける。

 

① 草むらを歩いていた時、カマキリの大きなやつが小さい同族を頭から喰らっているところを目撃してしまい、グロすぎてショックを受けた。今は、あれがメスが交尾中にオスを食べているのだということを知識として知っているが、そうは言っても二度と見たくない。あと、小学校の図書室にあった昆虫図鑑(虫の実物は見たくないが写真で見るのは好きだった)を眺めていたら、カマキリの腹の節の部分からハリガネムシがにゅら〜っと飛び出ている写真が載っており、これも強烈だった。この寄生関係はけっこう有名らしいのだが、なにしろグロい。今後の人生でも絶対に実物を見たくない。

 

② マンションの壁にボールを投げて遊んでいたら、12cmぐらいありそうな巨大なバッタが目の前に現れて思わず硬直したこともあった。顔が仮面ライダー型じゃなくて、前方斜め上に尖っているタイプのやつであるが、ただただ薄気味悪くて怖かった。しかし子供心に謎のプライドがあったので、ビビって逃げ出すのが癪に触るからその場でボールを弄びながらうろうろしていた。すると、九州から引っ越してきた虫大好きスポーツ大好き野生児のAHがママチャリでこちらに向かってきた。遠くからお互いに「おぅ」と挨拶したところで、AHがそのバッタに気付き、猛然と加速してそのバッタを轢き殺した。すると、そのバッタの腹が潰れて内臓がベチャッと噴き出し、口からは黒い体液の泡をブクブクと吐いた。AHはそのままじゃーなーと言って通り過ぎて行ったが、僕はもうそのまま茫然と家に帰った。けっきょくそのあとドラクエ2を遊んだのだが、パスワードが間違っていて最初からやり直したことを憶えている。

 

③ マンションの裏手にちょっとした小山があって、自然豊かで藪だらけだったので、子供たちの格好の探検場所だった。AHをはじめとして野生児気味の元気な連中が三人ぐらいいて、僕もそれに加わっていっしょに探検した。今は絶対にそんなことしたくないが、当時は好奇心も手伝って割と平気でそういう場所を歩いたのだ。すると、蔦に覆われたコンクリートの壁面を、15cmぐらいはありそうなムカデがシュルシュルとよじ登っているのを目の前10cmぐらいのところで見てしまった。率直に言ってうんこを漏らしそうなほどの衝撃を受けたのだが、友人たちの手前さすがに恥ずかしいので、見なかったふりをして冷静を装い先に進んだ。そのすぐあとで、後ろを歩いていたKがぎゃーっと叫び声をあげたのを聞いた。

ゴキブリは嫌々ながらも半ば克服できた現在だが、ムカデだけはいまだにダメである。こいつが出てきたらどう対処していいか分からない。頭でいろいろシミュレーションしているのだが、ムカデに向き合った自分が硬直してしまうところしか思い浮かべられない。