日本の漫画

職場に最近入社した若者がいる。彼は昨年からインターンとして会社に出入りしていたのだが、今年の4月をもって無事に研究論文を書き終えてマスターを修め、晴れて正社員として弊社に入社した人物である。目から鼻に抜ける知性というのはこういうことをいうのかと思わされるほど頭脳明晰な人物で、一を聞いて十を知るを地で行く理解の速さを見せてくれるうえに、これがいちばん重要なのだが、難しいことを僕のようなスカポンタンでも理解できるように簡潔かつ丁寧に説明してくれるのだ。

 

彼はまた、あぁ〜日本の漫画やアニメが好きな海外オタクってこういう奴らかと思わせるような日本の漫画とアニメ贔屓であり、いつも何かしら情報を仕入れてはその話をふっかけてくる。僕は社会人になってからはアニメにまったくといって良いほど興味をなくしてしまい、漫画も30歳を過ぎた頃からほとんど読まなくなってしまった(いちおう読むは読むのだが)。そういうわけで彼の話についていくのにいつも苦労する。日常的に漫画やアニメに接していなくても、ネットをうろうろしていたら今ブームになっている作品の題名を嫌でも目にするので、そんな程度の知識でなんとかやり過ごしていたりする。こちらが悩ましいメールを書こうとして頭を捻っている最中でもお構いなしにそういう話題で雑談をふっかけてくるので正直ウザいのだが、いいヤツなので頑張って相手をしているという感じである。

 

そんな彼だが、最近は特に「進撃の巨人」が大好きであるらしく、「今年でついに連載が終わるらしい。知ってたか?」と話題を振ってきた。知らねぇ〜そもそもちゃんと読んだこともねぇ〜と頭の片隅で考えつつ適当に話に付き合っていたら、「あの漫画は本当にすごい。ああいう作品に出会えたことは本当に幸運だと思う」「あの作者は比喩でも誇張でもなく真の天才だと思う」「あの作品は国宝にすべきだ。その価値が絶対にある」と、マジかよと思うほど延々とベタ褒めし続けるのであった。話を聞くともう10年も連載している漫画だそうで、いまさら最初から追いかけるのも気が進まなくなる長さだが、異国の青年がここまでベタ褒めしているものとなると、ちょっと読んでみようかという気にもなる。今度日本に休暇で帰った時にでも漫画喫茶で読んでみるか。

ガスの点検が来なかった

我が家は米を炊く時に炊飯器を使わず、鍋を使って炊いている。僕も相棒も、結婚前の独身時代からずっとそうである。さらに言えば、電気ポットや湯沸かし器なども使わずそのつどコンロでお湯を沸かすようにしている。特にこだわりがあるわけでもないのだが、鍋に水を入れて強火にかければものの5分ぐらいでグラグラに沸くから、まあそれでいいやというだけである。

 

そういうわけで、火が使えないとけっこう困る。

 

火曜日、会社の休憩室からオリオンモール手前の濁ったヘドロ沼の淀みを見下ろしつつ自前のお弁当を食べていたら、電話が掛かってきた。出てみると、ヒンディー語ともカンナダ語ともなんとも分からない言葉でバーっとまくしたてられた。普通はこういうときは「間違い電話だ」と一言で突っぱねる。すると大抵は「そうか…」みたいなしゅんとした返事とともにプチっと切るのだが、今日の人物はやけに食い下がってきて、しかも強気である。必死に耳を澄ませても何を言っているか分からない。そんな中で「ガス、ガス」と連呼しているのだが、英語のGasだとは思わず、けっきょく何を言っているのかさっぱり分からない。切ってしまおうかと思ったが、何か重要なことを言っていたら後で僕が困るので、近くの席に座ってお弁当を食べながら談笑していた女の子たちに恥も外聞もなく縋りついた。「ごめん、この人何言ってるか全然分からない。ヘルプお願いします」

 

そこで一人目の女の子が電話に出たのだが、そばで見ていてもまったく会話になっていないのが分かる。ヒンディー語だかカンナダ語だかで喋っているのにまったく通じないらしく、途中から英語に切り替えていたが、それでも通じないようで、アメリカンな女の人がよくやる、思いっきり眉をしかめながら大げさな身振りで手のひらを上に向ける、あんな仕草をしていた。どうやら話が通じないらしい。

そこで二人目の女の子にバトンタッチになったのだが、その子は一人目の事態を目の当たりにしていたためか、落ち着いた物腰で何語かで話をし、「ガスの点検で、あなたの家に夕方に行くと言っている」と説明してくれた。「夕方って何時?」と尋ねると、また少し会話をしたあとで「5時だそうよ」と教えてくれた。事情は分かったので、ひとまずOKということにして女の子たちにお礼を言い、相棒に事情を説明して待機しておいてもらうことにした。なお、電話の相手は英語もカンナダ語もまったく駄目で、ヒンディー語しか通じなかったらしい。バンガロールにいながらどちらも駄目というのはかなり珍しい気がするが、案外カルナータカ州の外から電話しているオペレーターだったのかもしれない。

 

…で、8時過ぎぐらいに帰宅したら、けっきょくガスの点検は来なかったとのことで、相棒は大層立腹していた。点検に来るというからずっと米も炊かずに待っていたのに、けっきょくまるで来る気配がなかった、いったいどういうことだこれは、何がどうなっているんだ、ふざけるな、まったくなっとらん、たるんどる。

じゃあ晩ご飯まだなんだ?と訊いたら、「いや、途中でしびれを切らして作った」ということだった。結局作ったんかい。

 

という、ひさびさにインドっぽい話。

Amazonとチャットして注文をキャンセルし、払い戻ししてもらった

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7月20日に、天然果汁100%のトロピカーナAmazonで8本発注した。相棒は100%モノにこだわっているのだが、近所のスーパーだとそういうのが全然無いか、あってもトロピカーナ以外のブランドで異様に高かったりするの、そういう時にはAmazonに頼ることになる。

 

…が、これが全然届かないのだ。このまま8月になってしまっても全く届かず、そのうちにAmazon側から「この注文の品はなくなってしまった可能性があります」というメールが飛んできた。といってもそれも8月20日頃のことで、個人的にはもう忘れてしまっていたほどだった。好意的に想像するなら、この時期はムンバイなどインド北西部が大雨洪水でめちゃくちゃな事になっていたので、店側がもろに被害を受けたり物流がズタズタになってしまったのかもしれない。悪い方向に想像するなら、この出店者が単なる詐欺師野郎で、注文が振り込まれた瞬間に畳んで逃げたのかもしれない。いや、さすがに税込み1000ルピー程度でそんな面倒なことはしないか…。

 

Amazonの払い戻し手続きはWebページを眺めていても該当の説明に辿り着きづらく(結局Googleで「Amazon India Refund」で検索したほうが速かった)、そのうえ非常に面倒なのである。税込みで1000ルピー強は安くないといえば安くないが、でもこんなに手間暇かけてまで取り戻すほどのことかなぁ、ブログのネタにもなるしなぁと、僕は完全に諦めていた。そのままさらに1ヶ月弱が流れた。

 

…が、相棒は執念深かった。いやいや諦めるな、Amazonは超ムカつく、逃さん、頑張って取り戻すぞ、という話になり、僕は渋々とまたAmazonの画面に向き合った。

 

すると、いわゆるサポートページの中に「チャットする」というメニューが見つかった。チャットねぇ。こういうのって大抵はAIがトンチンカンな応答を返してくるものと相場が決まっているので僕はまったく期待していなかったのだが、今(日曜夜10時)からサポートセンターに電話するのも面倒だし、仕方なく試してみることにした。すると:

 

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個人名でチャットに繋いだ人物が登場し、思いのほかちゃんとした対応が行われた。チャットで事情を説明してからものの5分ほどで払い戻し手続きが完了した。正確には本当に払い戻されるのは今から2〜4日後になるそうだが、少なくともAmazonの手続き上は正しく完了したらしく、このチャットを終えてからさらに5分後にはAmazonからメールで通知が飛んできた。

 

ひとまずめでたしなのだが、このチャットの人物、本当に人間なんだろうか。もしこれがプログラムだとしたら、AIの進歩は本当にすごいものだ。まあ、きっと人間だろう。たまにピリオドが打ってなかったり文法が変だったりするし。どっちにしてもこりゃあブログネタだな。おいしいな。でももう眠いから明日書こう。なんてことを思いながら寝た。

ケララ州の祭り

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金曜日、会社のカフェテリアに謎のデコレーションが出現していた。カフェテリアだけでなく、自分のオフィスの向いにある別の会社さんの受付の床にも巨大なデコレーションが作られていた。はて、会社のカレンダー上は特に祝日でも何でもないんだけどな、と思いながら守衛さんに訊いたら、これはどうもケララ州の「Onam」というお祭りと関係があるらしい。なんでまたケララ州の祭りがここで?と思ったが、よく考えたらすぐお隣の州だし、きっとバンガロールに上京(?)して働いている人も多かろう、ということで、そんなに不自然なことではないのかもしれない。しかし、3年以上バンガロールに住んでいて初めて見たな。

などと考えていたら、なんと「Onam」そのものを解説した日本語Wikipedia記事が存在した。マニアっているんだなぁ。

 

SE祈願

今使っているiPhone 6S Plusは、ちょうど2016年年始に確か渋谷のアップルストアで購入したのもので、その3ヶ月後にインドに赴任したから、赴任初日から今までずっとインド生活を共にしてきたわけで、愛着が強い。その間に画面のガラスが割れたり海水をかぶって充電できなくなったりといろいろあったが、なんとかここまで生き残ってくれた。しかし、最近はバッテリーの劣化が激しくて、以前よりも目に見えて消耗が激しくなってきた。しかもバイブレーション機能まで壊れてしまい、設定をどう弄っても振動しなくなってしまったので、電話やLINEが入ってきても気付けなかったりする。致し方ないがこれも寿命だろう。使える間はとことん使い倒すつもりだが、そろそろ買い替えを考え始めるようにもなった。

 

そんなところにちょうどiPhone 11が発表された。よし、じゃあこれにするか、と一瞬だけ思ったのだが、あの3つのレンズがどうにも好きになれない。率直に言えば格好悪いと思う。というわけで、来年こそiPhone SEの後継機が出ることを願いつつ11系はスルーすることにした。これでSEが出なかったらかなり哀しいが、その時は諦めてその時点での最新のものを買うことにしよう。

スリ対策

ひたすら仕事。ガネーシャ祭も終わってすこぶる平和。

 

インドに来てから、「スリ被害に遭ってパスポートを盗まれてしまった」という話を割と多く耳にするようになった。それも、主に休暇でイタリアだのスペインだのといった欧州旅行に行った人から聞くことが多い。インドだと、ぶっちゃけ外国人で超賑わう観光地とかハードコアな貧乏街にでも行かない限りスリになんて滅多に遭うものではないので、インドが意外と平和…というよりヨーロッパが想像よりもヤバい場所だということに今さらながら気がついた。何しろ向こうも生活が掛かっているわけで、ありとあらゆる手練手管を駆使して虚を突き盗みにくるらしいので、日本やバンガロールを歩くようなノリでぼやぼやしていたら太刀打ちできるわけがない。

 

被害話を聞いていると、他人事ながら悔しくてムカムカするので、スリたちに対して一発ぶちかませるような反撃手段を考えたい。

 

こういう職業的なプロのスリを現行犯で撃退するのは意外と難しい気がするので、いっそ盗ませる前提から出発して、スリが盗みを働いたあとで死にたくなるほどどんよりした気分にさせるトラップを仕掛けるという方策を考えたほうが良いかもしれない。たとえば、パンパンに膨らんだ財布を尻ポケットに入れておいて、しかしその中身は干からびたゴキブリの死骸やウンコしてケツを拭いたあとの茶色いのが付着したトイレットペーパーだとか、キテレツな格好をした自撮り写真だとか、持っているだけで呪殺されそうなサイコなものとか、そういうのをだ。開けた瞬間メンタル的に地獄行きでその日一日何もする気が起きない、みたいな。

 

いかにもバカ中学生が考えそうなアイデアだが、個人的にはかなり良い線行ってる方法だと思っている。でも、実際にやってみたら執念深く憶えられて後日雑踏の中で刺されたりするんだろうか。

煮玉子、酒乱

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煮玉子を作ったら思いのほか上手くできた。あと2個あるから弁当に使おう。なお、このページを参考にして、冷蔵庫から出したばかりの卵をグラグラに沸いたお湯にお玉で慎重に入れながら7分きっちり茹でてすぐに冷水に取ったのだが、何となく、そのページの6分ぐらいの出来上がりになってしまった。でもこれはこれで良しとする。

 

夜、一人で最寄りのBeer Cafeにビールを呑みに行く。レジ近くのカウンターでWikipediaカリギュラとかカス・ダマトとかを読んだり、いつの日か日本に戻った時に住むべき場所の賃貸情報とかを眺めつつ一人でじわじわと呑んでいたら、真後ろのテーブル席に居た3人組が完璧に出来上がっていて、店内に響き渡る大声でわーわーと喚いていた。英語ではなかったので何を言っているのかさっぱり分からないのだが、特に喧嘩をしているとかそういう険悪な雰囲気ではなさそうだったので、面白いからとりあえずiPhoneの録音アプリで録音しておいた。

しかし、気がつくと店員たちが4人ぐらい僕の近くのカウンター席に集まってきて、チラチラとその客たちを眺めつつ、互いに目配せしながら警戒している状況になってきた。さては結構険悪な雰囲気なのか。ちょっとだけ背中とお尻の筋肉が硬直した。カウンター内側にいるバーテンダーと目が合ったら苦笑された。

そのうち、その客たちが空っぽのジョッキを4つぐらい持って、僕の肩越しにドカッとカウンターに置いて、大音量でわーわーと店員に何か言っていた。そして、僕の肩をバンバンと叩きながら何か話しかけてきた。内心けっこうビビってたのだが、とりあえず相手を見ながら親指を立ててグッジョブしつつイェ〜、グッナイ!と大声で返した。その連中もグッジョブしつつ店の外に出ていったので、たぶん「おぅ、うるさくして悪かったな!ゆっくり呑んでけよ」というようなことでも言ってたんだろう。

そいつらが完全に立ち去ったあとに、店を仕切っているアジア人顔のメガネを掛けた青年に「凄かったねぇ」と声をかけたら「オーマイガー」と言っていた。「暴力沙汰にならなくて良かったな」と言ったら「彼らは半年ぐらい前から結構来るようになってて、毎回よく酔っ払うのだが、今日は特にextremeだったのでヒヤヒヤした」とのことだった。今日ほどでないにしても毎回こんなふうに呑んだくれた状態になられたら気を抜けないだろう。苦労が忍ばれる。

 

家に帰ってから、録音しておいた内容を喜び勇んで相棒に聴かせたら、何を言っているのか分からんからつまらん、そんなもんはよ消せ、と一蹴されて、屈辱と哀しみにまみれながら削除した。

 

日本の本社から、全社員宛に台風15号の注意喚起のメールが来た。こちらは至って平和である。日本はこの時期たいへんだ。